東京高等裁判所 昭和40年(行ケ)27号 判決
本願の考案の技術内容についてみるに、その成立に争いのない甲第一号証および甲第五号証の各記載、検甲第一号証、同第二号証の一および二、ならびに同第三、第四号証を綜合するときは、
(一) 本願考案の要旨は、補正明細書(甲第五号証)の登録請求の範囲の項に記載されているように、別紙(一)の図面の通り、「枠体の上部を内方に曲折し、スレート笠の裏面に溝部を有する接続金具をボルトナツトで取付け、その溝部内に枠体の上部曲折部を挿入するとともに、これをボルトナツトで緊定し、かつ枠体上部の曲折端を円形天井板に形成した凹所内に嵌合固着してなる煙突用笠の取付装置」にあること、
(二) そして、本願の考案はスレートを素材とする煙突用笠に関するものであり、スレート笠の有する特徴を生かすとともに、その欠点を克服するための考案であること、すなわち、スレート笠は煙突用笠として、焼けただれたり腐蝕しないので耐久性があり、安価に入手できる材料から作られ、しかも、その製造には格別の設備投資を必要としないという利点を有している反面、スレートの性質が脆弱であるため、わずかな衝撃に対しても割れやすく、煙突笠を取り付ける工作の際に、破損しやすいという欠点をも有しているので、その欠点を取り除くべく創作された考案であること、
(三) 本願考案の作用効果としては、
1 従来のスレート笠にあつては、笠と枠体にそれぞれ孔を穿ち、その両者を合致させて、これをビス止めするという方法が一般に用いられており、枠体は多く鉄製であるのに対し、笠はスレートであるから、両者の穴に多少でもずれがあると、取付に際して生ずる無理な力は脆弱なスレート笠の穴の偏した部分にかかることになり、笠の破損を招くという欠点をもつていたが、本願の考案においては、スレート笠には予め、溝部を有する接続金具をボルトナツトで取り付けておき、枠体との連結を、この接続金具に受けもたせることによつて、笠に穿つた孔と枠体の位置とにある程度のずれがあつても、これを確固に取り付けることができ、それによつてスレート笠の破損を防ぐことができること、
2 しかも、前記接続金具には溝部を設けておき、その溝部内に、枠体の上部曲折部を横方向から挿入して、前記ボルトナツトを緊定することによつて、笠と枠体との取付を確実ならしめるという構成をとつているから、従来法におけるように、笠の孔と枠体の孔を、数個所において、間違いなく一致させてビス止めするという手数を要することがないから、より簡易にしかもより迅速に取り付けることができること、
3 また、右のような構成をとつたため、枠体の上部曲折部には穴を設ける必要はないし、枠体上部の曲折端を円形天井板に形成した凹所内に嵌合固着することによつて枠体相互の拡開度が確保されているので、予め定められた拡開度を有するよう枠体の組み方をしてさえおけば、同一の枠体で、笠の大小にかかわらず、一定の拡開度に設けられた孔を有する笠に適合することができ、枠体の製造にもまたスレート笠の製造にも利便をもたらすものであること、
以上のような作用効果を有するものであることを認めることができ、ほかに反対に解すべき資料は見当らない。
これに対し、本件審決において引用された実公昭二七―四五七一号公報に記載されたところについてみるに、その成立に争いのない甲第七号証の記載によると、
(一) 右引例公報に記載されたところは煙突笠に関する考案ではあるけれども、その素材としては特にアルミニユームまたはその合金を用い、これを鋳造して煙突笠としたものであつて、スレートを素材として用いたものではないこと(笠、支持杆および取付金具をすべてアルミニユームまたはその合金で鋳造したものとすることにより、軽量で普通のブリキ製のものより遙かに寿命の長いものとし、兼ねて外観体裁もよいものとしたわけである。)
(二) この考案においては、別紙(二)の図面の通り、アルミニユーム笠を支持するアルミニユーム製支持杆の三本のそれぞれの頂部の突起は笠の裏面外周に近く設けた三個の差込突起に着脱することができるよう構成しており、その組立分解が簡易であることをそのねらいの一つとしていること、
を認めることができ、ほかに反対に解すべき資料は見当らない。
そこで本願の考案と引用例とを対比してみると、引用例は、スレートの有する特性を生かし、その欠点を克服するという本願の考案の有する課題を指向するものではないし、その笠と支持杆との取付構造も、着脱自在という点に重点があるにすぎない。
しかも、引用例においては、支持杆自体の有する弾力によつて半径方向と同一方向に外方へ働く力を、笠に設けた差込突起で受ける、という構成をとつている(このことは甲第七号証公報の記載によつて明らかである)のに対し、本願考案においては、半径方向と直角をなす接続金具をもつて、枠体を支持することによつて笠を枠体に取り付けるという構成をとつているので、この構成上の差異から、引用例における差込突起2の位置は、支持杆5の頂端突起6に相対応する位置にほぼ正確に決定されなければならないのに対し、本願の考案における、接続金具取付け用のボルトのための穴の位置は、支持杆が三本の場合についていえば、三つの穴が百二十度の拡開度の位置にあるように定められていさえすれば、穴と笠の中心との距離は必ずしも一定距離でなければならないという要請はなく、その間に相当の違いがあつても、笠を枠体に取り付けるのに支障を来すことはないし枠体の上部における内方への曲折部から、円形天井板へ固着させるための曲折部に至るまでの間のどこかの部分を挿入し、緊定できる位置に接続金具が取り付けられていればよいわけである。)、さらには前記ボルトを通す穴は必ずしもボルトの径と同一でなければならないという必要はないから、その間多少のゆとりを設けておくことが可能であり、このことから前記の拡開度も正確に百二十度でなくても(多少の誤差があつても)、これを修正することが可能になつているものということができ、このことは、ひいては、引用例の考案において、一般に普及しているスレート製笠を使用し、しかも、その取付用具をも含めて製造、運搬および取付を簡便にし、かつ、その間破損のおそれを少なくするという、引用例の考案とは異なつた効果を生じさせているものということができるのである。
もちろん、本件審決の指摘するように、この両者は、ともに、従来のような、笠と枠体に穿つた孔を合致させてこれをビス止めするという必要がないことは共通しているけれども、それは両者とも、笠に、支持杆あるいは枠体を保持するための差込突起あるいは接続金具を、予め設けておく、という構成をとつたことによるのであつて、それぞれの考案のねらいとするところが別異な点にあり、そのための構成を異にしている以上、前記の点を捉えて作用効果の上において格別の差異なしとすることはできない。
さらに、被告は、原告が本願の考案の効果として挙げるところのうち原告請求原因第三項(二)の(ニ)および(ホ)の点については明細書のうち詳細な説明の項に格別の作用効果を述べていないので、引用のものとの相違点である枠体上部の曲折端を円形天井板の凹所内に嵌合固着した点は、単なる設計変更に過ぎない旨主張するが、右はすでにその実用新案登録請求の範囲の項において、記載されている構成および詳細な説明の記載からすれば、そのような作用効果を有することを推論することは通常の機械技術の知識をもつている者ならば、さほど難しいことではないから、この点に関する被告の主張は理由がない。
以上のように、本願の考案は、引用例の考案とは、その主たる対象物の素材を異にし、取付方法その他について、その素材(スレート)に適応したものとしたものであつて、従前のスレート製煙突笠と異なるのはもちろん、引用例のものとも顕著な構成および作用効果上の差異があるから、引用例の考案があつても、本願の考案は、これから当業者がきわめて容易に考案できる程度のものにすぎないということはできない。
してみれば、結局、本願考案について、当裁判所に顕出された資料をもつてする限り、本件審決の挙げる引用例をもつてしてはその登録出願を拒絶することは相当でないから、本件審決はこれを違法として取消すのを相当とする。
〔編註〕 本件に関する別紙は左のとおりである。
別紙(一)本願の考案の図面
<省略>
<省略>
別紙(二)引用例の図面
<省略>